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第1節 民法 (売買)
一. 売買契約とは
売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手 方がこれに対してその代金を支払うことを約することによってその効力を生ずる 契約である。売買契約が成立すると、債権として、売主には代金の支払請求権が、買主には目 的物の引渡請求権が発生する。 また、債務として、売主には目的物の引渡義務が、 買主には代金支払義務が発生する。
二. 手付
手付とは、 契約締結の際などに当事者の一方から相手方に交付される金銭等 若 しくはその交付契約のことをいう。 この手付契約は要物契約であり、 現実に金銭等 を授受することによってはじめて成立する。
1. 手付の性質
手付の性質としては、単に契約が成立したという証拠を残すために交付される手 付である 「証約手付」 (いかなる手付でも最低限この性質は有する)、 契約の当事者 が、 自分の都合で自由に契約を解除できるとする約束のもとに交付される手付である 「解約手付」、 さらに、 約束違反の際に支払うことを想定して交付される手付で ある 「違約手付」 というものがあるが、 手付の授受があれば、 原則として、 解約手 付と解される。
2. 解約手付の効果
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、 売主はその倍額 を現実に提供して、 契約の解除をすることができる。売買契約の当事者は、 契約の相手方が履行に着手した後は、 手付によって契約を 解除することはできない。もっとも、これは、履行に着手した相手方を保護するた めであるので、自ら履行に着手していても、 相手方がまだ履行に着手していなけれ ば、 手付による解除をすることは可能である。
三. 売主の担保責任
1. 意義
売主の担保責任とは、売買の目的物が契約した内容に適合しない場合等に、売主 が買主に対して負う責任のことである。 担保責任は、契約当事者間でのみ生ずる。
2. 売主の担保責任 (抜粋)
① 買主の追完請求権
a) 追完請求の内容引き渡された目的物が種類 品質 数量に関して契約の内容に適合しないも の (「契約不適合」) であるときは、買主は、売主に対し、 目的物の修補・代替 物の引渡し不足分の引渡しによる 「履行の追完」 を請求できる。
※契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主 は、 履行の追完を請求できない。
b) 追完方法の選択
目的物が契約不適合である場合に、どの方法 (目的物の修補 代替物の引渡 し不足分の引渡し) で追完するかについては、まず買主が選択権を有する。 他方、買主が追完手段を選択しても、売主は、買主に不相当な負担を課する のでなければ、買主の選択した手段と異なる手段での追完をすることができる。
② 買主の代金減額請求権
売買の目的物に契約不適合がある場合、 a) 「買主が相当の期間を定めて履 「行の追完の催告」 をし、 b) 「その期間内に履行の追完がない」 ときは、買主 は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。もっとも、次の場合には、買主は、直ちに (無催告で) 代金の減額を請求す ることができる。
① 履行の追完が不能であるとき
② 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
③契約の性質 当事者の意思表示により、 特定の日時 一定の期間内に履 行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売 主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
④ 上記①~③のほか、買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがな いことが明らかであるとき
③ 買主の損害賠償請求・解除権の行使
引き渡された目的物が契約不適合である場合、買主は、前述の「追完請求権」 や「代金減額請求権」 を行使できることに加え、「債務不履行を理由とする損 「害賠償請求権」や「契約の解除権」 も行使することができる。
④目的物の種類・品質に関する担保責任の期間の制限
売主が種類・品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡し た場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に 通知しないときは、担保責任の追及 (追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・ 契約解除) ができなくなる。これは、 目的物の引渡しで履行を完了したと考える売主の期待の保護、法律 関係の早期安定、 長期間経過することにより種類・品質の契約不適合の有無の 判断が困難となるのを回避することが理由である。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知 らなかった場合 (悪意又は善意重過失) は、 そのような売主を保護する必要は ないため、 1年間の期間制限は適用されない。
※この期間制限とは別に、 通常の債権の消滅時効の規定も適用される。
第2節 担保責任の特例
一. 宅建業法
宅地・建物は高額であり、 その取引は一般的ではなく、 宅建業者と一般人の情報 量、 経験等に格段の差があることから、購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流 通の円滑化を図るために、 宅建業法が定められ、担保責任に関する特例がおかれた。
1. 適用対象
宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の売買契約がその対象となる。
2. 内容
宅建業者は、担保責任について、 原則として、 民法の規定よりも買主に不利な特 約はできず、これに反する特約は無効となり、 民法の規定に従うとされる。 ただし、 例外的に、 その期間について、「目的物の引渡しの日から2年以上」 とする特約は することができる。
二. 品確法
売買目的物の欠陥に対する補償としては、 民法上の瑕疵担保責任が定められてい るが、 多額の対価を要する住宅の売買については、買主の保護として不十分である。 そこで、より厚く新築住宅の購入者の利益保護を図るため、品確法が制定され、 瑕 疵担保責任に関する規定がおかれた。
※2020年4月1日施行の民法改正により、 民法上では 「瑕疵担保責任」 が 「担 保責任 (契約不適合責任)」 という表現となったが、 品確法では引き続き 「瑕 疵担保責任」という表現が残っている
1.適用対象
新築住宅が、この特例の適用対象となる。 ここで、 「新築」 とは、新たに建設さ れた住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないものをいい、 建設工事の完了の 日から起算して1年を経過したものは除かれる。 また、 「住宅」 とは、人の居住の 用に供する家屋又は家屋の部分をいう。 なお、一時使用のため建設されたことが明 らかな住宅については、この規定は適用されない。
2.品確法の瑕疵担保責任の対象部分
① 住宅の構造耐力上主要な部分
住宅の基礎 基礎ぐい、壁、柱、 小屋組、土台、斜材 (筋かい、方づえ、火 打材その他これらに類するものをいう。)、床版、屋根版、又は横架材(はり、 けたその他これらに類するものをいう。)で、当該住宅の自重若しくは積載荷 重、積雪、風圧、土圧、 若しくは水圧又は地震その他の振動若しくは衝撃を支えるもの
② 雨水の浸入を防止する部分 (屋根、外壁等)
a. 住宅の屋根若しくは外壁又はこれらの開口部に設ける戸、 わくその他の建具
b. 雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、当該住宅の屋根若しく は外壁の内部又は屋内にある部分
3.品確法の瑕疵担保責任の内容
① 瑕疵担保責任として請求できる内容新築住宅の買主は、売主に対して、次の請求をすることができる。
a) 債務不履行による損害賠償請求
b) 催告による解除
c) 催告によらない解除
d) 履行の追完請求
e) 代金減額請求
② 瑕疵担保責任の請求に必要な手続
売主が瑕疵のある目的物を買主に引き渡した場合、 買主がその瑕疵を知った 時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その瑕疵を理由 として、履行の追完の請求、 代金の減額の請求、 損害賠償の請求及び契約の解 除をすることができない。もっとも、目的物の引渡しの時に、 売主が瑕疵の存在について悪意又は重過 失である場合は、上記期間制限は適用されない。
③ 期間
引渡しから10年の担保責任を負う(特約により20年まで延長可)。 なお、 新築住宅が、 当該住宅を建築した請負人から注文者に引き渡され、そ の後注文者が売主となって当該住宅を売却した場合、 この売主は、請負人から 当該マンションの引渡しを受けた時から10年間、 買主に対して担保責任を負 う。
④特約
買主に不利な特約は無効となり、 品確法の規定による (片面的強行規定)。